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東京地方裁判所 昭和32年(ワ)6695号 判決 1958年2月17日

事実

被告石川歯車工業株式会社振出の約束手形一通を所持する原告の手形金請求に対し、被告は、右手形は被告会社の専務取締役としてその代表権を有した中島守信が、自己のために振り出したものであつて、被告会社のためになしたものではないから、被告が原告に対し右手形債務を負うべきいわれはないと争つた。

理由

被告会社の専務取締役としてその代表権を有する中島守信が被告会社の名において金額十二万円の約束手形一通を受取人欄空白のまま振り出したこと、原告が右手形を取得したこと、被告が右手形の支払を拒絶したことは被告の争わないところであるが、証拠によれば、右手形は白地手形として江川徳治に振出交付され、同人から転輾し、斎藤実を経て原告がこれを取得し、その受取人欄に原告の氏名を記入して白地を補充したものであること、しかして原告は右手形を小寺美咲子に裏書譲渡したところ、満期にその支払を拒絶されたので原告は右手形を受け戻して再びその所持人になつたことが認められる。

してみると、本件手形の振出は被告会社の行為として有効であつて、被告は当然原告に対し右手形振出の責任を負うべきものである。

もつとも、証人中島守信の証言によれば、中島守信は私利を図る目的で右手形を振り出したものであることが認められるけれども、凡そ会社の代表機関が会社の名においてなした行為は、たとえ具体的には私利を図る目的に出たものであつても、いやしくも抽象的には会社の目的の範囲内のものであるかぎり会社の行為として有効であると解すべきところ、本件手形行為は手形が商取引の手段たる性質を有する以上、抽象的には被告会社の目的の範囲内の行為であると認めるのが相当であるから、被告会社の代表機関たる中島守信の右手形振出の目的が私利を図るにあつた事実によつては、被告会社は右手形振出につき責を免れ得るものではないといわなければならない。

よつて原告の被告に対する右手形金の請求は正当であるとしてこれを認容した。

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